白内障手術の歴史

安積店の薬剤師Hです。
今回は白内障手術の歴史について、少し書いてみたいと思います。
吉行淳之介という作家がいました。
彼は白内障の診断を受けた時、
目の白髪のようなものだから気にしないようにと医師から言われました。
当時はまだしっかりした白内障手術が確立しておらず、
医師も手術を渋ってました。
白髪と同じで痛みはない。けれど徐々に視力は落ちていく。
片方の目の白内障は進行が遅いため、そちらの眼で見ればいいだろうと言われたが、
やはり不便はある。
そのまま8年がすぎました。
そして日本で初めて白内障の眼内レンズが認可されました。
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、その部分に人工の眼内レンズを入れる手術です。
彼はその最先端の技術である白内障手術を受けました。
『わずかな光しか感じなくなり、
もはや手なずけようがないほどの白内障に病んでいた右眼の視力が、
たった20分の手術で1.5まで回復した。』そうです。
その人工水晶体移植手術の体験をエッセイ『人工水晶体』に綴り、
講談社エッセイ賞を受賞しました。
これが1985年、昭和60年の話です。

写真1

白内障手術を行った記録は結構昔からあります。
日本では1360年代、室町時代には白内障手術をしていたという記録が残っています。
当時の手術方法は、針で眼球を突き、濁った水晶体を眼球内に落としていました。
成功率は30%前後。麻酔もないから凄い痛みでした。
しかも成功してもちゃんとは見えず、物の動いているのが分かる程度だったそうです。
この「墜下法」という手術はその後500年、1800年頃まで行われていました。

写真2

1990年、平成に入っても多くの病院で白内障手術はまだ難しいものでした。
まず麻酔が不評でした。
当時の麻酔は長い針先を眼球の後ろに入れて注射液を注入する方法でした。
針先が見えないため、医師は眼球の形を想像しながら感覚により針を刺していきます。
それはリスクと痛みと恐怖を伴うものでした。

写真3

手術の際も、瞳を11mmと大きく切開しなければならず、
その後の縫合も難しいもので、
手術がうまくいっても目のゆがみや乱視がおきました。
手術所要時間は1時間ほど、入院期間は約1週間
ずっと安静にしていなければならなかったのです。

そんな白内障手術が平成から令和にかけて大幅に進化しました。
まず1992年(平成4年)4月に、白内障手術の保険適用がスタートしました。
かつては手術費・眼内レンズ代を合わせると30万円ちかくになりました。
負担の重さに、多くの方が手術を諦めていました。
今では1割負担の方なら、両目でも3万円で手術ができます。

次に麻酔が点眼式になりました。
麻酔用の目薬をさせばよいだけなので、痛みも恐怖もありません。
黒目の半分の11mmを切っていた切開創も2.4mm弱と小さくなりました。
切開が小さいため縫う必要もなく、乱視等も起きにくくなりました。
手術時間も熟練した医師ならば5分もかからずに終わってしまいます。

現在では白内障手術は「水晶体再建手術」と呼ばれ、
1992年、保険適応がスタートした時は年間30万件弱だった手術件数は、
現在では年間約140万件にのぼります。

光が眩しく感じる、霞んで見える、近視が進行したなど
見え方が気になってきた方は、早めにかかりつけの眼科の医師や最寄りの眼科医に相談下さい。

郡山にある地域の健康コンサルタント調剤薬局ミッテルから
白内障手術の歴史についてでした。